まず、「わが空海」。空海の生い立ちや唐に留学するまでと、その後について書かれています。空海の乗った遣唐使船が中国福建省の海岸に流れ着き、苦労して長安に至るまで。そして、当時の密教の第一人者であった恵果という偉い僧から、後継者として選ばれたというところ。
仏教については何の知識ももっていませんが、1,200年ほど前の驚嘆すべき事実には感動しました。
次に当時執筆中の「坂の上の雲」第4巻の後書きと、その後の「旅順から考える」。日露戦争の汚点ともいえる旅順攻撃と乃木希典についてのエッセイ。旅順攻撃は、何の情報収集も作戦もなく、兵の犠牲を考慮せず、ただただ突撃するのみの日本陸軍の戦法の最初のものとし、以後似たような戦法が太平洋戦争までずっと続いたのだという。
付け加えると、司馬遼太郎は、旧日本軍に学徒出陣で招集されており、戦車隊に配属されていた。日本軍戦車のことについては、第6巻でかなり詳細に書かれており、その「弱さ」について必読。
「競争の原理の作動」、「日本、中国、アジア」においては、日本がアジアと違うところについて触れている。古い中国、韓国に代表される儒教社会ではない、との話。江戸時代の農村でも競争があり、一般の官吏は汚職をほとんどしなかった。→ これは昭和40年代後半の現状を踏まえた話なので、比較的最近のエッセイはもう少し違うのかもしれない。
最後は、「関ヶ原私感」。1600年の関ヶ原の戦いは、単なる徳川・豊臣の戦いではなく、日本中を2分し、その後の日本の歴史におおきな影響を残した、日本人の歴史的な共同体験であったと。いろいろ事例を挙げながら関ヶ原の戦いについて述べています。