1980年公開の黒澤明監督作品。武田信玄の影武者を描いたもの。
黒澤監督作品は、「七人の侍」しか見たことがなかったのですが、この映画はなかなかおもしろかったです。
冒頭、本物の武田信玄、その弟の武田信廉(彼も信玄の影武者の一人)、そして主人公の影武者。三人の似たような武将が並ぶシーン。これには、ウン??といきなり引き込まれました。名画は、冒頭で決まるということです。
映画としては、仲代達也演じる影武者が、段々と本物と見まがうようになっていくところがおもしろいです。そして、信廉役の山崎努や山縣昌景役の大滝秀治、信長役の隆大介などがとても役にはまっていて、この映画を重厚にしています。
特徴的なのは、戦国映画に不可欠なはずのチャンバラシーンが見られないこと。武者や馬、鉄砲は豊富にエキストラを出して、戦場の雰囲気は見事に出しているのですが、いわゆる斬り合いは見せません。戦闘の行方は、武将や侍の表情で暗示させるという、描き方です。
もう一つの特徴は、個々の映像や人の動きが大変きれいなこと。旗指物の並び、兵士たちの行進、整列シーン、武将や従者たちの所作など、すべての映像や演技が、きちんとしていて美しいです。
音楽は池辺晋一郎さんですが、なかなかよい音楽だと思います。この音楽によりオペラ的な感覚で映画を見られます。