中勘助という名前を知っている人はかなりの日本文学通か、男声合唱に興味がある人かどちらかだと思います。
私は後者です。数年前に購入した多田武彦(男性合唱曲の作曲家)のCDに、この中勘助の詩に作曲された数曲が入っていました。きれいな詩と無伴奏による男性合唱が心を打ちます。
その後、あるホームページで、この「銀の匙」の感想文を読み興味がわきました。夏目漱石の弟子ということなので古い人ですが、割と長命で1965年に80歳で亡くなった人です。「銀の匙」は、彼の最初の作品で、明治末から大正初期に書かれました。
内容は、虚弱体質だった自分の子供時代、病弱な母に代わり彼の面倒をみてくれた伯母さんや、隣近所の仲良し女の子などとのエピソードを綴っただけなのですが、明治時代後半の子供を取り巻く情景が、大変柔らかできれいな「東京言葉」で描写され、すごく生き生きと伝わってきます。文章そのものが詩的(音楽的)です。