街道をゆく第5巻は、週刊朝日1973年11月から1974年6月まで連載分、モンゴルの旅である。
司馬遼太郎は、大阪外国語学校蒙古語部卒業なのでモンゴルにはひときわ愛着があったが、この旅がはじめての旅だったようだ。
彼が訪れた時期は、モンゴルとの正式な国交がようやく始まったばかり。当時のモンゴルはソ連に次ぐ世界2番目に成立した社会主義国として存在しており、ソ連のハバロフスク、イルクーツクを経由してしかいけない遠い国だった。
前半は、経由地のハバロフスクやイルクーツクの状況、旧ソ連の旅行関連サービスの悪さなど、スリルに富んだ状況描写と、遭遇した人々とのやりとりを歴史視点もからめて描写。
一番面白かったのは、ゴビ砂漠の項。ウランバートルから飛んで、降り立った飛行場は草原のまっただ中。果てしなく続く草原やゴビ、パオ、ラクダや馬の放牧、満天の星空。一度見た人の顔は忘れないというモンゴル人の特徴をはじめ、案内をしたツェベックマさんという女性との文化の違いを感じさせる会話。
このあたりを読んでモンゴル旅行がしたくなった人は多いだろう。
現代の文明装置グーグルマップでモンゴルの航空写真を見ると、首都ウランバートルは近代都市だが、郊外部を拡大して見ると、塀で囲まれた中にモンゴル伝統のパオと思われる形が見える。