井上靖の「あすなろ物語」読みました。自分の体験を元に、明日は檜になろうとして頑張るが、結局なれない翌檜(あすなろ)の木のもつ、上昇志向と限界というテーマで書かれた小説です。
淡々とした描写の中に、昭和初期から戦後へと移り変わる時代が描かれていて、かつ、「あすなろ」たちの陰と陽の両面が伝わるよい作品でした。
天城山中の蔵で義祖母とその姪と暮らした「深い深い雪の中で」は、中勘助の「銀の匙」の雰囲気がただよう。「寒月がかかれば」では、沼津のお寺での中学時代、少し不良っぽくなり女性を意識する。
「漲ろう水の面より」は、大学時代のあてどもない暮らしの中、年上の美しい未亡人に恋い焦がれる。「春の狐火」では戦地から帰り新聞記者として働く中での、老記者とその妹とのからみ。
「勝敗」では、ライバル社の記者との偶然のいろいろな出会い。最後の「星の植民地」は、焦土と化した大阪で、ふたたびもえでてきた「あすなろ」たちとの出会い。
井上靖の小説は、「楼蘭」、「おろしや国酔夢譚」と読んできました。文体は私に合うようで、とても読みやすく味わい深いので、好きになりました。BOOKOFFで見つけたら必ず買うようになり、現在23冊たまりました。