相良俊輔 流氷の海 ある軍司令官の決断

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流氷の海 太平洋戦争のなかで、唯一無傷で撤退に成功したキスカ島守備隊。その撤退を決断し実行させた司令官が樋口李一郎中将。

 この人は、日本軍指揮官、特に陸軍の中では異色の経歴を持つ人です。ポーランド駐在武官、ハルピン特務機関、陸軍参謀本部第二部長、千島・北海道方面軍司令官などを歴任。ソ連との国境オトポールでユダヤ難民の救出援助(この本では2万人という数字になっているが実際にはそんな規模ではなかったらしい)、ノモンハン停戦や汪兆銘との交渉、アッツ島守備隊玉砕後のキスカ撤退決断など。さらには、直接ではないにしても、終戦直後の千島列島占守島でのソ連軍との戦いなど。

 ヒューマニズムにあふれた人です。クーデターを計画する軍部若手将校からも尊敬されていましたが、本人はあくまでクーデターには反対。東条英機らの戦争拡大路線にもあくまで反対。北方専門だったのでソ連からは戦犯逮捕要求が出たそうですが、世界ユダヤ協会が積極的に働きかけ、逮捕させなかったそうです。

  「坂の上の雲」の秋山兄弟のように、もっと小説の主人公になってもいい人だと思いますし、ドラマ化してほしい人です。ひょっとしてなってるのかな? いずれにしても、今年の読書を締めくくる、とてもよい作品でした。

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